help4
「絶っっっ対に駄目」
ミリアルの所へ行き、目的を話すと間髪を容れずに断られた。
その表情はとても険しい。
いつものミリアルじゃないみたいだ。
「僕の立場を利用して、オークションの会場へ潜り込みたい? 絶対にそんなことは許しません」
「え一、何で? いいじゃん! ミリアル、いつも駄目って言わないのに!」
「いくらソフィアちゃんのお願いでも駄目なものは駄目」
今日はいつになく頑なだ。
困ったなあ。
「――ソフィア、あんた、自分が何を言っているのかわかっているの?」
我らが情報、イオンがものすごい形相であたしをにらんでいた。
用事があったらしく、イオンはたまたまミリアルの所にいた。
「おねーさんたちの手伝いをしたいんだよぅ」
「お黙りなさい! リン様に……リン様にそんな格好をさせて、許されるとでも思っているわけ⁉︎」
「あー……」
あたしはメロディーおねーさんの背後に隠れている先輩を振り返った。
「どう? 可愛いでしょう?」
「そんなことを聞いているんじゃない! 可愛いのはわかっているわよ!」
怒られた。
今の状況を説明するね。
おねーさんたちがミリアルの何を利用したいかって、とある会場に潜り込むための切符を手に入れることだった。
その会場というのが、ミリアルが先程言った、闇オークション。
前回、落札されずに終わってしまった例の王冠をホワイトはまた、出品しようとしているそうだ。
闇オークションへの招待状は、限られた人にしか来ない。
手に入れようと思っても、それなりの地位が必要だ。
だけど……ミリアルなら簡単に手に入れられるはず。
そういうわけである。
……で、もし会場に潜入できたとして、王冠が本物かどうか見分けられるのは、アリエルしかいない。
怪盗たちを恐れて、ホワイトが偽物を出してきてもおかしくはないからね。
その対策として、アリエルを連れて行く。
でも、アリエルを連れて行くには器が必要。
でないと、コミュニケーションがとれないからだ。
だからといって、この黒いウサギのぬいぐるみを連れていくわけないもいかない。
人間の器が必要だ。
憑霊ってやつだね。
そんなの誰でもいいのだけれど、アリエルにとってはどうでもよくない。
彼女のワガママによって、犠牲になったのは、先輩。
なぜなら、生前の彼女とそっくりだそうだ。
アリエルは自分と容姿が似ている先輩をご所望した。
結果。
「……ふざけているの?」
凍ってしまいそうなくらい、辛辣なミリアルの声。
「誰がふざけてこんな格好するか!」
黒いロングの髪が印象的な美少女に大変身!
服はアリエル好みの黒いドレスだ。
あたしは趣味悪いと思うけどね。
「何だか昔を思い出すね、先輩!」
「うるさい、お前は黙ってろ」
にらまれてしまった。
ミリアルは頭を抱えて大きなため息をついている。
「……誰が発案者? まさかあんたじゃないでしょうね」
イオンが、メロディーおねーさんを鋭い目で見る。
な、何でそんなに怒ってるんだよ……
「アリエルがワガママを言って聞かないから、似た人を探していたの。そしたら……」
おねーさんはなぜかあたし見た。
え!? あたし、何かしたっけ?
「ほらソフィアちゃん……この間見せてくれたじゃない。昔の写真だって……」
「あ……そういえばそうだったっけ……」
言われてみれば、おねーさんにそんなものを見せたような……
「お前! 取りあげたのにまだ持っていたのか!」
「いやぁ……アハハハ……」
殴られたくなかったので、あたしはウィリアムの近くに避難した。
「ソフィア……! あんたってやつは、何てことを……!」
イオンが小さな体を震わせ、怒りで顔真っ赤にしている。
「あんたはいつまでバカなことをやっているの! いい加減自覚しなさい! 自分がどういう立場の人間かってことを! リン様はこんなことをするためにあんたの傍にいるわけじゃあないのよ!? リン様はあんたのおもちゃじゃないのよ! この子に何かあれば私
は、あんたが八代目であろうとも許さないんだから!」
「イ、イオン……」
イオンにこんなにも怒りを向けられたのは、初めてだった。
叱られてばかりなのはいつものことだけれど、でも違う。
何で?
何でそんなに怒っているの……?
「イオンちゃん落ち着いて。ソフィアちゃんは悪くないんだから、責めちゃあいけないよ……」
ミリアルがイオンをなだめるが、聞こえていなさそうだった。
「……リン君、それは君の意思? 君はそれで構わないのかい?」
静かに、ミリアルは先輩に問うた。
「僕は嫌だよ、はっきり言って。でも君がいいって言うなら、応じるしかないとは思っている」
「嫌だけど、この人たちに迷惑をかけた自覚はある。俺が手伝うことで許されるのなら、俺はメロディーさんたちを手伝う」
それを聞いて、ミリアルは再びため息をついた。
「ああ、そう……。わかったよ。今のは大人な僕の意見ね。大人じゃない僕の意見は
絶対に駄目。協力したくない」
できないじゃなくて、したくない?
わずかな言葉の違いに、あたしは違和感を覚えた。
「……やれやれ。手荒な真似はしたくないのですが」
話が平行線になっていたところに、ずっと傍観していたウィリアムが口を開いた。
……とてつもなく嫌な予感がする。
「さっき二人にはお伝えしたのですが……ミリアル・スマイルさん。あなたにも同じことを言わせていただきますね」
ウィリアムは先輩に近づき、首元にナイフを当てた。
あ!
あたしはポケットに慌てて手を突っ込む。
ない!
あのナイフ、あたしのじゃあないか!
ウィリアムめ……!
「あなたに選択肢も拒否権もありません。大人しく僕たちに従ってください。さもないと、リン君を人質にとらせていただきます」
こいつ、犯罪者かよ..
あ。犯罪者か。
「僕を脅す気かい、王子様」
「何が言いたいんです?」
ウィリアムは刃先端を先輩の肌に押し当てた。
赤い血が白い肌にじわりと浮き出る。
あわわわ……こいつ本気だ!
「ウィル! やめて!」
メロディーおねーさんが 怒った口調で言った。
あたしも腰に隠している銃に手を触れた。
「――なんてね。冗談ですよ」
緊迫した空気の中、ウィリアムがパッと手を離した。
すぐさま先輩はウィリアムから距離をとるため、部屋の隅へと行ってしまった。
「でも、人質はわりと本気で言いました。どういう意味かわかりますよね?」
ニコリと微笑むウィリアム。
「それでは、当日はよろしくお願いしますね、ミリアル・スマイルさん。僕たちのもこの件は一刻も早く片づけたいと思っていますので」
ナイフをあたしに返し、ウィリアムはさっさと部屋を出て行く。
「まっ……待ちなさい! ウィル!」
メロディーおねーさんとあたしは、慌ててその後を追った。
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▼同時進行!【trio4】
そうじ屋の愉快なお仕事 trio4
trio4 ラン先輩がいなくなった後、リン先輩が大きなため息をついた。 呆れているようにも見えたが、どちらかと言えばこの場から姿を消してくれてホッとしている。といった感じだった。 ……俺には、気になることがあった。「あの……もしかして、何か知っているんですか?」 ギクッと、リン先輩とローズ先輩からそんな効果音が聞こえてきそうだった。 二人とも何も言わない。 ……何も言わないということは、やっぱり。「ラン先輩...
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そうじ屋の愉快なお仕事 help3
「彼のことは許せないけどね。でも、それ以上にホワイトのこと許せないわけ。せめてデュノアに、盗られた物を返してあげたいと思って、私は彼らに協力を求めたのよ」 ……デュノア家ってまだ存在しているんだ。 アリエルの話じゃあ相当非難を浴びたとのことだったので、没落していてもおかしくないと、あたしは思ったのだった。「ひっそりとまだ存続しているわ。一人の女に全てを狂わされた一家としてね。それよりも私の実家...
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そうじ屋の愉快なお仕事
あたしは自分を守れる強さがほしい。でも、今は違うんだ――そうじ屋見習いの少女、ソフィア。彼女は何を思い、何を求めて強くなりたいのか。そして、そうじ屋とは何なのか――。一人の少女と彼女を取り巻く人々の物語。
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